「そんなことより定数削減」発言が示したもの──期限も示さない政治が信頼を失う理由
「そんなことよりも、ぜひ、定数の削減やりましょうよ」。
企業・団体献金の規制を問う党首討論の場で飛び出したこの一言に、多くの有権者が「は?」と固まったはずです。
質問にちゃんと答えないどころか、「そんなこと」呼ばわり──これは質問者だけでなく、私たち有権者への侮辱でもあります。
企業・団体献金の話を「そんなこと」呼ばわり
問題の発言が出たのは、2025年11月の党首討論でした。
立憲民主党・野田佳彦代表が、高市首相に対して「政治とカネ」、特に
企業・団体献金の規制をどう強化するのかを問うた場面です。
派閥の裏金問題や、企業・団体献金が政治不信の大きな原因になっているのは、今さら説明するまでもありません。 だからこそ、野田氏は「この問題に決着をつけるべきだ」として、各党の法案を今国会で通せるかどうかをただしました。
それに対する答えが、あの 「そんなことよりも、ぜひ、定数の削減やりましょうよ」 です。ここで多くの人が感じたのは、 「企業・団体献金の規制って、その程度の扱いなの?」という強烈な違和感でした。
質問している相手にも、有権者にも失礼
「そんなことより」という日本語には、はっきりとした上下のニュアンスがあります。
「それよりもっと大事なことがあるでしょ」「その話はたいした話じゃない」という意味合いが、どうしてもにじみます。
今回の文脈で言えば、 政治とカネの問題を「そんなこと」扱いした ように聞こえるのは避けられません。 質問している野田代表に対して失礼なだけでなく、このテーマに怒りや不信を抱いている有権者をも軽んじているように受け取られても仕方がない表現です。
しかも、その直後に持ち出したのが「衆院議員の定数削減」です。
定数削減は一見「身を切る改革」のように聞こえますが、ここでの使い方は
人気が出そうな話題を盾にして、本題から目をそらす
方向に働いてしまっています。
一番イラつくポイント:「いつまでに答えを出すのか」を言わない
今回のやり取りで、もう一つ看過できないのが、 「いつまでに」結論を出すのかが示されなかった ことです。
政治家がよく使う、
- 「慎重に検討します」
- 「しっかり対応してまいります」
- 「調査を進めています」
こうしたフレーズは、一見前向きに聞こえますが、 期限とアウトプットの形が示されない限り、いくらでも先延ばしできる言葉 です。
本来なら、少なくとも次のどれかぐらいは言えたはずです。
- 「調査結果を○月末までに取りまとめます」
- 「今国会中に、与野党協議の場で案をまとめます」
- 「次の通常国会までに、政府として法案を提出します」
どれでもいいから期限を切れば、あとから
「約束を守ったかどうか」を国民がチェックできる
ようになります。
逆に言えば、「いつまでに」を言わない政治は、最初から責任をあいまいにする政治です。
定数削減そのものの議論と、すり替えの問題は別物
ここで注意したいのは、 「定数削減」というテーマ自体の是非 と、 今回の発言の問題点 は分けて考える必要がある、という点です。
議員定数を減らすべきかどうかには、賛否いろいろあります。
「税金の節約になる」「政治家が多すぎる」という声もあれば、
「定数を減らすと、多様な声が国政に届きにくくなる」
「行政をチェックする目が減る」という懸念もあります。
しかし今回の問題は、 その是非を真面目に議論する前に、「そんなことより」と言って持ち出した ことにあります。 本来なら別の場でじっくり議論すべきテーマを、「耳障りのよさそうなカード」として切ったように見えてしまった。 だからこそ、ここまで反発を招いているのです。
最低ラインとして「いつまでに」「何をするか」を求めたい
裏金問題や企業・団体献金の在り方は、すでに何十年も政治不信の火種になってきました。 それでも、なお 期限も示さず、「そんなことより」と話題をすり替える ような対応を続けるのなら、「自民党は信じられない」という感情が出てくるのは自然なことです。
有権者としてできることは、決して難しくありません。
どの政党・どの政治家に対しても、まずは二つのことだけは最低ラインとして求めることです。
- いつまでに結論(調査結果・法案・方針)を出すのか
- 何をアウトプットとして出すのか(報告書なのか、法案なのか、与野党の合意文書なのか)
この二つをきちんと言葉にできない政治には、「信頼しない」という判断をする権利が、私たちにはあります。
「そんなことより定数削減」という一言は、単なる失言ではなく、 「説明する責任から逃げる政治」を私たちに改めて見せつけた出来事 でした。 あの違和感や怒りをなかったことにせず、次の一票をどう使うか考える材料にしていきたいところです。
