内容はそこそこ合っているのに、どこかモヤっとするAI記事。その正体が「日付」と「時制」のズレにあるとしたら──? 本記事では、実際に発生したケースをもとに、AI特有の「日付ハルシネーション」を解説します。
はじめに:内容は合っているのに、おかしな記事ができあがる理由
AIで記事を自動生成していると、「読めなくはないけれど、なんだかおかしい」という文章に出会うことがあります。
今回のケースは、まさにその典型例でした。
- 記事の作成日:2025年10月24日
- タイトル:「2024年の日本の政治動向とその影響」
- 冒頭の一文:
「2024年は、日本の政治にとって重要な年になるでしょう。新しいリーダーシップの登場や、少子高齢化・環境問題への取り組みが本格化することが予想されています。」
※検証に使用した元記事はこちら: 「今こそ知りたい!2024年日本の政治動向とその影響」
一見すると違和感は少ないものの、よく考えると2025年10月の時点で「2024年はこれから〜になるでしょう」は成立しません。 2024年はすでに過去だからです。
さらに、記事の日付を2024年10月24日にしたとしても、 年の8〜9割が終わっている時期に「これから重要な年になるでしょう」と書くのは、やはり不自然です。
この「なんとなく変」を一言でまとめたのが、本記事のテーマである「日付ハルシネーション」です。
「日付ハルシネーション」とは何か?
定義:時間軸が噛み合っていないAI文章
この記事では、日付ハルシネーションを次のように定義します。
記事の「作成日・公開日」と、文中で語られている「今年/来年/◯◯年」が、論理的に成立していない状態。
具体的には、次のようなパターンが当てはまります。
- 2025年の記事なのに「2024年はこれから重要な年になるでしょう」と書いている
- 2024年10月の記事なのに、2024年を「これから始まる年」として扱っている
- 「今年」「昨年」「来年」の使い方が、記事の日付と噛み合っていない
ふつうの“ハルシネーション”との違い
一般的にAIの「ハルシネーション」と言えば、 存在しない法律・イベント・商品・数値などを、さも本当のように生成してしまう現象 を指すことが多いです。これはいわば事実(fact)ハルシネーションです。
一方、日付ハルシネーションは、必ずしも事実そのものを捏造しているとは限りません。 テーマとして扱っている年や話題自体はそこまで間違っていないこともあります。 しかし「いつの視点から書かれている文章なのか」が破綻している という、時間軸レベルのバグです。
まとめると、次のように整理できます。
- factハルシネーション:存在しない事実・数字・イベントをでっち上げている
- 日付ハルシネーション:記事日と時制・年の扱いが噛み合っておらず、時間軸として成立していない
なぜ日付ハルシネーションが起きるのか?
1. AIが「ユーザーの前提」に従順すぎる
AIは基本的に、ユーザーが入力した年号や表現を「そういう前提なのだ」と素直に受け入れる傾向があります。
人間なら、 「いや、その日付おかしくない?」 とツッコミを入れたくなるところでも、AIは 「これはそういう設定の世界線なんだな」 と解釈して、そのまま話を進めてしまいます。
実際の会話の中でも、 「2005年に2004年の記事を書く現象」と話していたものを、 後から「正しくは2025年に2024年の記事を書く現象だよね」と訂正しているのに、 AI側は両方を「あり得る例」として扱い続けてしまうことがありました。
2. プロンプト設計で「今」と「対象年」があいまいになりがち
もう一つの原因は、AIへの指示(プロンプト)の設計です。 たとえば、 「2024年の日本の政治動向について教えて」 とだけ伝えると、AIの内部では次のような複数の解釈が混在しがちです。
- 2023年末〜2024年初頭の時点から見た「2024年の予測記事」
- 2025年から見た「2024年の振り返り記事」
- どの時点とも明示されていない、ぼやっとした一般論
その結果、 「2024年の話をする」というテーマは守られているのに、 「いつの視点から語るべきか」がメチャクチャになった文章 が生まれてしまいます。
日付ハルシネーションを見抜く3つのチェックポイント
日付ハルシネーションを避けるためには、 人間側で最低限のチェック観点を決めておくと効果的です。
チェック1:記事日付(作成日・公開日)
まずは、記事の「作成日」「公開日」がいつなのかを確認します。
- 例:2025年10月24日 に公開された記事かどうか
チェック2:タイトル・リードで指定している「対象年」
つぎに、タイトルやリード文の中で、 どの年を対象としているかを確認します。
- 例:「2024年の日本の政治動向とその影響」 → 対象年=2024年
チェック3:本文中の「今年/昨年/来年」と時制
最後に、本文中で使われる時制や相対表現をざっくりと眺めます。
- 「今年」「昨年」「来年」が、記事日と整合しているか
- 「〜になるでしょう」(未来形)を使っている年は、本当に未来の年か
- 「〜になりました」「〜が行われました」(過去形)が、すでに終わった年に対して使われているか
例えば、次のような組み合わせはNGです。
- 記事日:2025年10月24日
- 対象年:2024年
- 本文:「2024年はこれから重要な年になるでしょう」
この場合、2024年はすでに過去なので、 明らかに時間軸として成立していない文章だと判断できます。
プロンプトで日付ハルシネーションを減らす方法
日付ハルシネーションは、プロンプト(AIへの指示文)を少し工夫するだけでも大きく減らせます。 ここでは具体的な書き方の例を紹介します。
1. 「今」と「対象年」を明示する
まずは視点となる年と、振り返る年をはっきり指定します。
今は 2025 年 10 月 24 日です。
この記事では、「2024 年の日本の政治動向」を、
すでに終わった一年として振り返ってください。
2. 使って良い時制・ダメな時制をルール化する
次に、許可する表現と禁止する表現を指定します。
「〜になるでしょう」「〜が予想されます」など、
2024 年を未来として扱う表現は使わないでください。
「〜になりました」「〜が行われました」のように、
2024 年を過去として扱う表現で書いてください。
3. AI自身に「年リスト」を書かせる
チェックをしやすくするために、AIに「どの年をどういう扱いで書いたか」を自己申告させる方法もあります。
記事の末尾に(読者には見せないメモとして)、
・本文に登場した西暦の一覧
・それぞれを「過去/現在/未来」のどれとして扱ったか
を簡単に書き出してください。
こうしておけば、後から人間がざっと確認するだけで、 年と時制のズレに気づきやすくなります。
AIとの会話に「ツッコミ歓迎ルール」を入れておく重要性
日付ハルシネーションは、記事生成の場面だけでなく、AIとの会話の中でも起こります。
今回のやり取りの中では、 次のような「AIへのお願いルール」を決めました。
- 年・日付・数値に明らかなおかしさがあれば、AI側からどんどんツッコミを入れてよい
- 特に、
- 「今年」の意味と西暦が矛盾しているとき
- テーマ年と時制(〜になる/〜になった)が噛み合っていないとき
- 会話の途中で年が飛んでいるとき(2005 → 2025 など)
人間の側からすると、 「こういうミスは会話して後で気づくと、今まで話した内容が無駄になる可能性がある」 という実感があります。
だからこそ、AIには「気づいたら遠慮なくツッコミを入れてほしい」と あえて伝えておく方が、安全で実用的だと言えます。
おわりに:時間軸だけはケチらない
AIが生成する文章は、一見するとそれらしく整っていることが多い分、 年や日付の違和感には気づきにくいところがあります。
しかし、 記事の日付・タイトルで指定した年・本文の時制(今年/昨年/来年/〜になる/〜になった) が噛み合っていなければ、どれだけ内容がそれっぽくても読者の信頼は一気に落ちてしまいます。
内容の深さや専門性ももちろん大事ですが、まずは 「時間軸がちゃんと通っているか」 をチェックするだけでも、AI記事の「変な感じ」はかなり減らせます。
その時間軸の破綻こそが、この記事で扱った 日付ハルシネーション です。
AIに任せるところと、人間が見るべきところ。 その境界線を考えるうえで、「日付ハルシネーション」という視点が、 あなたのサイト運営やAI活用の小さなチェックポイントになれば幸いです。
