忌み数の札が揺れる夜

解説

日本の文化において、数には特別な意味が込められている。中でも「忌み数」とされる4(死)や9(苦)は、特に不吉とされ、避けられることが多い。こうした数字は古来より、霊的な存在や妖怪との関連性が指摘されてきた。たとえば、4は単純にその音が死を連想させるが、9はその音から「苦しみ」というイメージが強調される。

これらの数は、日常生活にさまざまな形で影響を与え、例えば病院や旅館の部屋番号で見られるように、特定の数字を避ける配慮が施されることが多い。こうした意識は、人々の心の奥深くに根付いており、古い伝承や怪談の中でもその影響力は色濃く反映されている。

日本の怪談には、目に見えないものに対する恐れや、人間の心の奥底に潜む闇が描かれることが多い。そのため、忌み数を中心にした不気味なエピソードは、聴く者に静かな恐怖を与え、日常生活の中に潜む不安を呼び起こすのだ。忌み数のもたらす影響は、単なる迷信にとどまらず、私たちの精神世界に深く根ざしたものであることを理解することが重要だ。

怪談

薄暗い廊下を歩くと、どこからともなく、かすかなさざ波のような音が聞こえてきた。旅館に宿泊しているはずなのに、静けさが異様に強調されている。周囲の壁には、古びた額が掛けられており、そこには薄汚れた女性の肖像が描かれていた。その目は、まるで生きているかのようにこちらを見つめていた。

2階の部屋に戻る途中、ふと目に留まったのは廊下の隅に置かれた木の札。そこには「うたれた者の霊」という文字が書かれている。隣の部屋からは、かすかな声が漏れ聞こえ、何かを話しているのがわかったが、その内容は朦朧としていて理解できなかった。

ふと、壁にかけられた数字のプレートが目に入る。「404」と書かれている。ここは「4」が含まれている部屋だ。心臓が驚くように鼓動を速める。恐れと好奇心が交錯する中、気づくと誰かの影が廊下の先にかすんで見えた。人影はすぐに消え、ただ静けさだけが残る。

部屋に戻ると、扉の隙間から不気味な冷気が流れ込んできた。声が聞こえる。今度は明確に。「早く、出て行け」と。思わず振り返るが、そこには何もいない。再び廊下へ戻ると、札が揺れていた。誰かが通り過ぎたのだろうか。それとも、ただの風のいたずらか。

部屋に戻ると、またしても「404」と数字が視界に入る。だが、今度はその横に小さく「9」の文字が現れた。心の中に何かが渦巻く。忌み数が一層強く意識される。自分の選択が間違っていたのではないかと、冷たい汗が背筋を流れた。

再び廊下を歩くと、今度は鮮明な声が再び響いた。「お前も、数に呪われる」。その瞬間、ふと気づくと、廊下の壁に掛けられた肖像画が微かに笑った気がした。自分の影が壁に映り込み、4と9が重なった瞬間、何かが崩れ去る音がした。

ふと静まり返った廊下に戻ると、ただの静けさが広がっている。おかしな感覚が胸の奥でうごめいていた。何が現実で、何が幻か。扉の向こうに待つ恐怖を感じながらも、次第に忘れ去られていく自分の存在を思い知らされる。

廊下の奥から、再びさざ波の音が響く。数えたはずの夜が、まだ終わらないことに気づく。それは、誰かの呼ぶ声かもしれない。いや、もしかしたら、まだ6つ目の扉が開かれていないのかもしれない。

その夜、数字が揺れ動く音が、旅館の空気に溶け込んでいった。

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