四と九の間

解説

日本の文化において、特定の数字には強い忌避感が存在する。特に「4」と「9」は、死や苦しみを連想させることから不吉とされる。4は「死(し)」、9は「苦(く)」と発音が同じであり、これが人々の間での戒めや恐れを生んできた。

また、こうした忌み数は、古来の妖怪や伝承と深く結びついている。数字が持つ意味は、神話や伝説の源流に根ざしており、様々な物語で妖怪が数に関連する形で人間に災厄をもたらす。これにより、数字は単なる符号ではなく、存在そのものに影響を及ぼす力を持っているとされるのだ。

このような背景を持つ「4」と「9」の間には、日常生活に潜む恐怖や不安が隠れている。それは、目に見えないものに対する警戒感を呼び起こし、心の奥にある不安を掻き立てる。数字の不吉さは、単なる superstition ではなく、私たちが忘れたくても忘れられない恐怖の象徴なのかもしれない。

怪談

薄暗い廊下を進むと、古びた旅館の壁には、裂けたような線が無数に走っていた。部屋の中には、数十年前の風呂敷に包まれた干し魚の匂いが漂っている。村の人々は、この旅館に泊まることを避けていた。理由は知らない方が良いだろうと言われていた。

「4号室」と書かれた扉の前に立つ。扉にはドアノブがない。なぜか、押しても引いても動かない。その瞬間、背後からひんやりとした風が吹き抜けた。思わず振り向くと、空気が重くなり、何かが確実にそこにいる気配がした。誰もいない。

意を決して、無理やり扉を押し開ける。室内には古い家具が無造作に転がっており、いくつかの物はまるで長い間動かされていないかのように埃をかぶっている。四角い窓から差し込む夕日の光が、不気味に揺れていた。

どこからか、微かな囁き声が聞こえた。「出ていくな、出ていくな…」そう言っているのは、誰なのか。耳を澄ませるが、答えはない。心臓が早鐘のように鼓動を打つ。

突然、視界の隅に何かが動いた。目を向けると、小さな影がすぐに隠れてしまう。恐る恐る近づいてみると、そこには古い掛け軸が一枚。絵に描かれたのは、白い着物を着た女の横顔。彼女の視線がこちらを向いているように感じる。

ふと目をやると、掛け軸には「四十九日」と書かれていた。その瞬間、恐怖が全身を駆け巡る。四十九日とは、死者の霊が成仏するまでの期間。旅館で見たこの女の霊が、自分を取り込もうとしているのか。

背筋に冷たい汗が流れる。急に耳元で、か細い声が囁く。「私を忘れないで…」と。しかし、頭の中が真っ白になり、もうここにはいられない。全力で廊下を駆け出す。

外の空気を求め、ゾクゾクとした心持ちで扉を開ける。しかし、部屋の外には無限にも感じる長い廊下が続いている。足音が反響している。振り返ると、あの女の影はまだそこにいる。影はじっと、一歩も動かずに見つめている。

その時、背後で静かに扉が閉まる音がした。振り向くと、4号室は再び閉じられていた。

廊下の先に広がる世界は、今までと何も変わらない。しかし、どこかがほんの少し、違和感を持ちながら続いている。そこには、自分を待つ何かが潜んでいる気がする。目に見えない恐れが、心の奥でささやいていた。

この旅館から立ち去ろうとするたび、胸の奥に未練が残り、振り返らずにはいられない。そして、自分が持ち帰ったのは、単なる泊まり客ではなく、泊まりきれない何かだった。

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